おさかなマイスター認定No.0075 加川 厚子
いろいろな魚の旬。
前回の「Vol.2"魚の旬"とは」では、どんな時期を「旬」と呼んでいるのかを踏まえた上で、漢字を見るだけで旬が分かる、鰆(サワラ)や秋刀魚(サンマ)、鱈(タラ)などの魚を取り上げました。今回は、食卓に頻繁に登場する、その他の魚の旬について見ていきましょう。
●カツオ(鰹)
もう、30年ぐらい前のことです。8月のお盆の時期、盛岡でタクシーの運転手さんに「いまおいしい魚はなんですか?」と聞いたら「カツオだよ」と言われて驚いたことがあります。そのころ私は「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」とも詠まれたように、カツオは初夏の魚だと思っていたのです。カツオは回遊性の魚で、春、日本の近海を北上し、秋、南下するので、関東のカツオの旬は「上りガツオの春」と「戻りガツオの秋」の2回あります。近頃は船の性能が良くなり、初物が喜ばれるので、3月には鹿児島や宮崎、八丈島沖の初ガツオが入ってきます。その後、産地は静岡、千葉、三陸と北上していきます。栄養分析表によると、春のカツオの脂肪分は0.5%、秋は6.2%となっています。東京には日本中から魚が入りますから、春から秋まで美味しいカツオが食べられます。
●マグロ(鮪)
マグロと聞いてまず思い浮かべるのは、大間(青森県)産に代表される冬のクロマグロでしょう。冷たい海で獲れたマグロは、脂肪をたくさん含み、身もしまって特級品で、なかなか庶民の口には入りません。3歳以下の未成魚はメジ(マグロ)と呼ばれ流通しています。値段は安くおいしいのですが、資源を保護するため漁獲量を制限するので、今後は私たちの口にも入りにくくなるでしょう。
ひと口にマグロと言いますが、マグロにも種類があり、それぞれに旬があります。春たけなわになるとキハダがおいしくなってきます。そして、季節が逆の南半球に生息するミナミマグロも冬になり旬を迎えます。もし夏に生のマグロが入ってきたら、それは南半球で獲れたものでしょう。夏から秋にかけては、メバチが出てきます。これはしっとりした赤身が味わえ、生でも値段は手ごろです。また、以前は缶詰用だったビンナガは、今ではトロの部分を「ビントロ」と呼び、回転ずしでよく使われています。マグロの刺身をサクで買うときは筋の入り方で食感がちがうので、筋に気をつけてください。
【マグロの柵の選び方】
柵に入っている白い筋は主にコラーゲンでできています。筋はかたいので、食感をよくするには、筋が短くなるように直角に切ることです。
●イカ(烏賊)
イカは脂肪が少なく、たんぱく質が豊富です。食べるのに邪魔な骨もなく、生でも焼いても煮てもおいしく、人気があります。特にスルメイカは、漁獲量が多く値段も手ごろで、食卓に上がる代表的なイカでしょう。秋に能登半島から対馬海峡周辺で生まれたスルメイカは、主に対馬暖流に乗って北上し、夏から秋に日本海沖で獲れます。冬に東シナ海で生まれたスルメイカは、三陸や北海道で、秋以降を中心に獲れます。初夏は体が小さく身も薄かったスルメイカがだんだん厚みを増し、晩秋にはほとんど店頭から姿を消します。イカの寿命は一年なのです。スルメイカが姿を消すと背中に硬い甲を持ったコウイカがでてきます。そして冬から春にかけてはヤリイカ、高価なアオリイカ、夏にかけてはケンサキイカ、さらに小さなホタルイカ。このように、一年中いろんな種類のイカが楽しめます。
●サケ(鮭)
日本で昔から食べてきたサケはシロザケという種類です。東北や北海道で放流された鮭の稚魚は3、4年の旅を終え、産卵のため生まれた川に戻ってきます。その時期が秋なのでアキザケとも呼ばれます。その多くは沿岸の定置網で獲られ、ほとんどが塩鮭に加工されるため一年中食べられますが、秋だけは生のものが食べられます。ムニエル、フライなど油と相性が良い魚です。時鮭、時しらずと呼ばれているのは秋に産卵するシロザケを春から初夏に獲ったもので、脂がのっています。にぎりずしなどで人気が高いサーモンは、海外で養殖されたタイセイヨウサケです。
●サバ(鯖)
日本近海で獲れるのは主にマサバとゴマサバです。特にマサバは秋になると脂がのっておいしくなります。ゴマサバは、マサバほど脂はありませんが、夏でもあまり味が落ちません。「サバは生き腐れ」という言葉があるぐらい鮮度が落ちやすく、ヒスタミンが増えて食あたりすることがあるので、鮮度には注意してください。
●ブリ(鰤)
寒ブリと言われるように、脂がのった冬のブリは絶品です。刺身、照り焼き、ブリ大根など、いろいろな料理ができます。塩漬けにして乾燥させた塩ぶりは信州や関西以西では正月の雑煮に欠かせません。ブリは出世魚で、大きさによっていろいろな名前をつけ、おいしく食べています。たとえば関東では、わかし、いなだ、わらさ、ぶり、関西では、もじゃこ、わかな、つばす、はまち、めじろ、ぶり、となります。養殖の歴史も長く、一年中、かなりおいしく食べられます。
おさかなマイスターとは、魚介類の旬、栄養、産地、漁法、調理、取扱方法などを学び、さかなの魅力や素晴らしさを伝える「さかなの伝道師」です。
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