関東にはあまり出回らない、岡山自慢の名物えび。
よしえびをふんだんに盛り付けた郷土料理「祭り寿司」は必食!
よしえびは、東海・関東地方ではなじみが薄いですが、西日本、特に瀬戸内などの河口域や内湾部ではよく漁獲されます。大量に一度に獲れるものではないため主に地元で消費される、自慢の名物です。岡山では他にも「さるえび(がらえび)」や「しばえび(しらさえび)」が漁獲されますが、よしえびは他のどのえびよりも立派な20㎝ほどの大きさに成長します。沿岸域で獲れる15㎝以上のものは「おおぞうえび」と呼んでいます。
岡山の分限者(お金持ち)のステータスは、名物「祭り寿司」のネタにどれだけ立派なこのえびをどれだけたくさん使うかで決まります。秋の祭りに欠かせない祭り寿司。庶民はアナゴ・ママカリ・モガイなど季節の旬をネタとして貼り付けてその豪華さを競い合うのですが、すし桶の表を鮮やかな朱色で彩り、その家の「祭り寿司」の豪華さを決めるのがよしえびです。「あそこはさすがに分限者じゃ。すしのおおぞう(よしえび)の立派なこと。」という具合です。
岡山の「祭り寿司」の歴史の中で、面白いエピソードがあります。昔むかし江戸の頃、御殿様が、贅沢禁止の倹約令を城下に発したのです。絹を木綿に、芝居の上演禁止、婚礼・葬儀の行列にまで規制が及び、「祭り寿司」のデコレーションにも当然厳しい目が向けられました。城下の分限者たちの反骨精神がメラメラと燃え上がったのです。なんと彼らは今までにも増して豪華な具をすし桶の底に張ったのです。まず朱色鮮やかな大きなよしえびと名物ママカリの酢じめ、焼きアナゴの短冊、モガイの煮貝、マツタケ、桜レンコンなどを底一杯に敷き詰め、そのうえにたっぷりの錦糸卵。酢飯にはガラえびのむき身を混ぜ込んで、卵の上におけの口いっぱいまで重ね、一番上にはただの酢飯を薄く乗せ表面に白ごまを振り、千切りたくわんをぱらぱらと散らし、桶のふたで押さえます。祭りの打ち上げに持ち込んで皆の衆に差し入れです。桶のふたを開けてみんながっかり、誠に粗末なたくわん寿司。そこで祝い主の分限者いわく、「ふたを戻してひっくり返し、桶のほうを持ち上げて」開けてびっくり、なんと豪華な「祭り寿司」。これぞマコトの「分限者寿司」。
岡山にお越しの節は、市内の寿司屋さんで「祭り寿司」「分限者寿司」を注文してみてください。おやじさんにこのえびは「よしえび」ですか?と問いかけてみるとそこから話題が広がって楽しいひと時が過ごせることでしょう。
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